屋根に勾配をつけたり軒を深くしたり、庇をつけたり、雨水が流れる経路をつけたり。
雨水から家を守る工夫は昔からたくさんあります。これらの工夫を建築用語で「雨仕舞い」(あまじまい)といいます。
家の内部に雨水が入らないようにするのだから「防水」と同じことでしょ?と思いがちですが、「雨仕舞い」と「防水」は根本的に考え方が違うんだそうです。
“仕舞う”という言葉は、”片付ける”とか”始末する”という意味でも使われます。「雨仕舞い」の”仕舞う”もまさにその意味。
入ってくる雨を外に出す → 雨水を処理する、という考え方が「雨仕舞い」。
壁に雨水がかかることで汚れたり劣化することを防ぐというのも「雨仕舞い」に含まれます。
一方で「防水」は、そもそも水を浸透させない、建物を密閉するという考え方。
液状の防水材を塗布したり、シート状の防水材を貼るなどすることによって水を浸透させないようにすることだそうです。
『雨仕舞のしくみ 基本と応用』(2004年 彰国社出版 石川廣三 著)という本に、昔から伝わる雨仕舞いの手法について科学的にされていました。
「雨の降り方を知る」「水はどう流れるかを知る」「雨がかりを減らす」「水を切る」「水を返す」「水を殺ぐ」「水を導く」「水を抜く」が雨仕舞いに必要とされること。
そして、雨仕舞いの原理は「雨水が濡らす部位部材の形態と配置の選択によって表面や隙間の雨水を適切に処理し、不具合の発生を防ぐ」ということ。
高度に専門系な内容なのでかなりの部分を読み飛ばしてしまいましたが、なるほどなぁと頷けるところもたくさんあり、素人なりに興味深く読めました。
雨の降り方は地域によって違いがあります。
建物の「雨仕舞い」は地域の独特の景観を作ったり、「雨仕舞い」を見るとその地域の雨の降り方がわかります。
例えば、高知県室戸市の吉良川には、水切り瓦という小さな庇が壁面についた家が並ぶまちなみが残っています。
吉良川は室戸岬に近い海沿いの町で、水切り瓦で強い風雨から漆喰の白壁を守ってきました。
また、水切り瓦は富の象徴としても考えられていたそうです。
京都の町屋の象徴のひとつである犬矢来も、建物の外壁や塀の下部を泥はねから守る役割があるそうです。
「雨仕舞い」という工夫は、自然と上手に付き合っていく上で大事な知恵。
それに”あまじまい”という言葉もなんだか美しい響き。
こういう知恵や言葉は後世にしっかり伝えていきたいものですね。