とんがり屋根の家が並ぶおとぎの国のような景観で知られるイタリア・アルベロベッロ。
白壁に灰色の円錐形の屋根を載せたトゥルッロと呼ばれる伝統的な家屋は、 16世紀から17世紀にかけてこの地方を開拓するために集められた農民が建てた家だそうです。
トゥルッロの構造はとてもシンプルなもの。 壁は石灰岩の切り石を重ね、漆喰を使って白く塗り固めただけ。 屋根は灰色の平らな石をバランスを取りながら円錐状に積み上げただけで、接合剤すら使われていません。
シンプル極まりない構造の住宅ですが、実はこの地方の気候・風土に合わせた 素晴らしい工夫が隠されているのです。アルベロベッロのあるプーリア地方は川や湖がなく、降水量も少ないところ。
薄い土壌の下は強固な岩盤で井戸を掘ることもできず、水資源が乏しいのです。なので、たまに降る雨は貴重な資源。 しっかり貯めて生活用水として使っていました。その貴重な雨を集める工夫は石灰岩でできた壁“とんがり屋根”にあります。
トゥルッロの壁は二重構造になっていて、外壁と内壁の間には土砂が詰められています。
円錐形の屋根で受けた雨水は土砂の詰まった壁の間を通って濾過され、床下につくられた大きな貯水槽に集められるのです。
昔は貧しかったので、厚い壁をつくるのに必要な費用を節約するため家を連続させたそうですが、 「家を連続させることで屋根を大きくすることができ、雨水を集めやすくなるから」という理由もあったそうです。
さらに、この時代“漆喰で塗装された屋根のある家”は課税対象になっていたので、 住人たちは徴税人が来ると屋根を壊し「これは家ではない」と主張。
徴税人が帰ったらまた屋根を積んだと伝えられています。また、敵が攻めて来た時には屋根の石材を投げて反撃したという話もあるそうです。
入手しやすい材料で建てた、気候・風土に合った家が美しい風景をつくるアルベロベッロ。 漆喰壁は雨水を濾過するだけでなく、夏は直射日光を反射し、冬は暖炉の熱を外に逃がさしません。 白壁は紫外線を防ぐだけでなく、室内を広く明るく見せてくれる効果もあります。
しかし、屋根を積む技術を継ぐ人も次第に少なくなるなどの課題も多いそうです。
シンプル極まりない建物に見えても先人の知恵が詰まったトゥルッロ。 その美しい景観と知恵を後世に守り伝えていってもらいたいものですね。